「COBOL(コボル)」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。多くの人がその名前すら意識しないまま、実はこの言語が、銀行の預金や年金、企業の在庫管理といった社会の土台を60年以上にわたって支え続けています。近年は「2025年の崖」「2027年問題」という言葉とともに、あらためて注目を集めています。私たちSTトレーディングがテクノロジー事業として本腰を入れる「レガシーモダナイゼーション」の中心にあるテーマでもあり、今回はその背景を、なるべくやさしく整理します。
COBOLとは ― 1959年生まれ、事務処理のための言語
COBOLは1959年、アメリカで事務処理用の共通言語として生まれました。名前は「COmmon Business-Oriented Language(共通事務処理用言語)」の頭文字です。プログラマー以外の担当者にも読めるよう、英語の文章に近い書き方ができるのが特徴で、とりわけ金額計算で誤差が出にくく、大量のデータを正確に処理することに長けています。だからこそ、1円のズレも許されない金融や会計の世界で、長く重宝されてきました。
「もう古い」どころか、いまも社会の基盤
使われなくなった過去の言語だと思われがちですが、実際は逆です。銀行の勘定系、保険や証券、クレジットカード、官公庁の税・年金、製造業の受発注や在庫管理——止めることのできない基幹システムの多くが、今なおCOBOLで動いています。ある独立系の調査では、日常的に使われているCOBOLは世界で数千億行規模にのぼり、回答した企業の9割以上が「COBOLは自社にとって戦略的だ」と答えたと報告されています。一説には、世界の銀行システムの約4割、ATM取引の約9割を今も支えているとも言われます。日本でも、いまだ半数を超える企業がレガシーシステムを使い続けているという調査があります。
「動いている」のに、なぜ問題なのか
これだけ丈夫に動いているのに、なぜ問題視されるのでしょうか。本当の課題は「言語の古さ」ではなく「人」にあります。COBOLを理解し保守できる技術者は高齢化が進み、退職とともに急速に減っています。2020年春の試験からは、国家試験である基本情報技術者試験の選択言語からCOBOLが外れ、若手が学ぶ入口も細くなりました。さらに、長年の改修で仕様書が失われ、「この処理が何をしているのか、もう誰にも分からない」というブラックボックス化が、各社で進んでいます。
経済産業省は2018年の「DXレポート」で、この状況を「2025年の崖」と表現しました。レガシーを放置した場合、2025年以降に最大で年間約12兆円もの経済損失が生じうること、2025年には稼働から21年以上が経つ基幹システムが全体の約6割に達すること、IT予算の約8割が既存システムの「維持」に費やされ、新しい挑戦に回せていないことなどが警告されています。ここにCOBOL技術者の大量退職や、基幹ソフトの従来サポート終了が重なるタイミングが、いわゆる「2027年問題」です。
それでも、COBOLは「捨てる」ものではない
誤解してほしくないのは、COBOLそのものが悪いわけではない、ということです。数十年ノートラブルで動き続けるほど枯れて安定しており、その中には、長年積み上げてきた自社の業務ノウハウがぎっしり詰まっています。大切なのは、これを「捨てる」のではなく、正しく「次の世代へ引き継ぐ」ことです。
引き継ぎ方(モダナイゼーション)には、大きく4つの方法があります。基盤だけを新しくする「リホスト」、言語をJavaなどへ書き換える「リライト」、中身を整理する「リファクタリング」、別のかたちに作り替える「リプレース」——頭文字をとって「4R」と呼ばれ、実際には目的に応じて組み合わせ、一度に全部ではなく機能ごとに少しずつ移していくのが現実的です。近年は生成AIの活用も進み、たとえばIBMは、AIでCOBOLをJavaへ変換し、自動生成したテストで元の動きと一致するかを確かめる支援ツールを提供しています。移行は、以前より「速く・安く・確実」に近づいてきました。
次の10年へ引き継ぐために
私たちSTトレーディングは、物販・物流という自分たちの現場を持ち、その業務を自らデジタル化してきた会社です。だからこそ、机上の理屈ではなく「現場で使われ続ける」視点で、レガシーの刷新に取り組みます。大切なのは、2027年までにすべてを移し終えることではなく、今から『現状分析』の一歩を踏み出しておくこと。動き出しの早さが、選べる手段の幅を決めます。COBOLをはじめとするレガシーシステムのご相談は、どうぞお気軽にお声がけください。
